雪が降っている








雪が降っている。
雪が降っている。
私は、
私は。
そのなかでひとりうずくまっていた。

彼女は?
彼女は、
彼女はただ眠っている。
眠りのなかで何も知らないまま。
何も感じないまま。
ただ眠っているだけ。

雪が降っていた。
雪が降っていた。
外は一面の白景色。
ただ白いだけの、
真っ白なだけの、つまらない眺め。
私はそれを見てなぜか涙を流す。
なぜだか切なくて。
なぜだか悲しくて。

雪はそれを覆い隠すように、
私の涙と彼女の寝姿を包むように、
しんしんと降り積もる。

私は眠る彼女の髪にそっと触り、
そっと髪撫でる。

彼女は眠ったまま。
彼女は何も知らないまま。
ただ眠っている。
眠っている。

私は外を見上げ、
雪の降りてくるところ探す。
白い白い雪がどこから来るのか探す。

きっと雪は天上から降りてくるのだろう。
氷の結晶、
雲から生まれるのだと聞いたことがあるが、
でもきっと雪はその上の上の、
天上から降って来るのに違いない。
だって、
こんなにも綺麗なのだから。
こんなにも汚れ知らないのだから。
きっと神様の居られるところから降って来るんだ。

彼女もきっとそう言うと思う。
私の父も、
私の母も、
きっとそう言うと思う。

だってこの切ないほどに白い雪を見れば、
皆、そう言うに違いない。
だってこれは天上の贈り物なのだから。

彼女は眠っている。
彼女は眠っている。
起きたら何て言うだろう。
この雪を見て、
この白い景色を見て、
何と言うだろう。

白いだけでつまらないと言うだろうか。
綺麗だと言うだろうか。
起きてくるまで判らない。
彼女に訊くまで判らない。
だって彼女はいま、雪景色と一緒に白い身体して、そこに居るだけなのだから。

彼女の白い肌、
黒い髪、
まるで死んでいるかのように眠る様。

私は、
私は。
もう一度彼女の髪に触れようとして、
彼女の身体に触れようとして、止めた。

起こしてしまってはいけないと思ったから。
触れてはいけないのだと気付いたから。

このしんしんとした雪と同じに、
まだ他人の靴に踏み荒らされていない雪景色と同じに、
傷付けては、いけないと、
思ったから。

私は彼女がはだけた布団をそっと直し、
露わになった彼女の肌をそっと布団で隠し、
また外を見る。

雪は降っている。
ただ降っている。

私も、
私も。
ただここに居て息してるだけで。

彼女も、
彼女も。
寝息という名の、呼吸を、ただしてるだけで。

私は、眠る彼女と一緒にただ雪を見ているだけで。
何も変わらない。
何も起こらない。

ただ、雪の降る間は。
雪のしんしんと鳴る間は。
他人に踏み荒らされない間は。

ただ、その間は。
その間だけは。
その間だけ。

ただ、雪は降る。
雪は降る。

私と彼女を世界から覆い隠すように。
世界をも覆うように。
すべてを隠すように。

ただ。
ただ。
ただ。
すべてが始まろうとする、
そのときまで。
降り続けるだろう。
降り止まないだろう。

ただこの間だけは。
私と彼女が共にいる、
この間だけは。

そっと、
降り積もる。





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