雪の降る日には。








ねぇ、どうして?
ねぇ、何で?
ねぇ、、

あの日、あなたは傘をわたしに差し出して、そのまま。
遠くへ行ってしまった。
(もう会うことも無いだろう)
(これは君への餞別だよ)
傘の向こうであなたの背中がそう語っているように思えた。

白い雪の降る街で、
寒いためか、皆、うつむき加減で通り過ぎてゆく駅の前で、
わたしは雪を眺めることも無く、ただ、ただ。
地面に落ちて黒い染みになっていく白いものを見ていた。

あの時、上を見上げれば、夜の空から降りてくる、たくさんのたくさんのたくさんの、
綺麗なものが見られただろうに。
わたしは黒い水の染みしか見ていなかったんだ。
あの人の背中さえ追わなかった。
何も求めなかった。
何も探さなかった。

そっと手を伸ばせば、届いたかもしれないのに。
求めるものを得られたかもしれなかったのに。

白い白い雪の街で、私の両目は通り過ぎる人々の靴しか覚えていない。
「今なら、」なんて馬鹿げているけれど、でもやはり二度とは戻って来ないあの日の背中と、わたしのかじかんだ指と、雪を思い出すわたしだけがここに取り残されてる。

もう一度、もう一度、もう一度、
そんな事ばかり思い出す。
今日みたいな寒い冬の日は。
思い出す。






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